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コネクテッドインダストリーズ時代のモノづくりを考える―中小企業のIoT活用の可能性と課題―

CIsシンポジウムのご報告
開催日時 平成30年5月24日(木) 13:10~17:00
場所 機械振興会館 6階 6D-1・2
テーマ コネクテッドインダストリーズ時代のモノづくりを考える―中小企業のIoT活用の可能性と課題―
講師 経済産業省 中小企業庁 経営支援部 小規模企業振興課長 西垣 淳子 氏 / (一財)機械振興協会 技術研究所 所長 後藤 芳一 氏 / 小島プレス工業株式会社 総務統括部 参事 兼子 邦彦 氏 / 武州工業株式会社 代表取締役社長 林 英夫 氏 / 株式会社KMC 代表取締役社長 佐藤 声喜 氏
内容  5月24日(木)に機械振興会館において、「コネクテッドインダストリーズ時代のモノづくりを考える―中小企業のIoT活用の可能性と課題―」をテーマに、コネクテッドインダストリーズシンポジウムを行いました。当日は約80名の皆様に足を運んでいただきました。ご参加いただいた皆様には、厚く御礼申し上げます。

 以下は本シンポジウムの様子と、5人の講師の方々による講演およびパネルディスカッションの内容を簡単にまとめたものでございます。それぞれの講演がIoTの導入・活用を目指す企業の方々のご参考となれば幸いです。

林所長による開会の挨拶
林 良造 機械振興協会 経済研究所 所長 による開会の挨拶

経済産業省 中小企業庁 経営支援部 小規模企業振興課長 西垣 淳子 氏の講演
経済産業省 中小企業庁 経営支援部 小規模企業振興課長 西垣 淳子 氏による講演の様子

 経済産業省中小企業庁の西垣淳子氏はまず、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットなどの技術のブレークスルーによる、第四次産業革命が起こっていることを指摘した。Connected Industries(コネクテッドインダストリーズ)とは、これらのような技術を活用し、やがて国民生活の向上や国民経済の健全な発展につながる、企業を中心とした諸活動といえる。
 コネクテッドインダストリーズについて、中小企業の活動を中心とした様々な事例を通じ、製造業のバリューチェーンに起こる変革を示しながら、日本の企業の課題として、生産技術単体への注力に偏っているために付加価値が上げられないことを挙げた。それに対して海外プレイヤーの戦略にはサービスを起点とするものと、ものづくり(製品)を起点とするものの2つの動きがみられ、事業分野の展開やグローバルなプラットフォームの展開を行っていることに言及した。
 続いて行政支援に関して、中小企業で先述したような技術の導入を進めるために、行政では様々な支援策を講じているとした。たとえば、中小企業へ人材派遣し個々の課題に応じた改善策・技術のアドバイスを行う「スマートものづくり応援隊」や、革新的なサービス開発・試作品開発を行う中小企業・小規模事業者の設備投資等を支援する「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業」などの補助金制度などを整備していることについて紹介した。

(一財)機械振興協会 技術研究所 所長 後藤 芳一 氏の講演
(一財)機械振興協会 技術研究所 所長 後藤 芳一 氏による講演の様子

 機械振興協会技術研究所では企業と連携して、栽培管理システム、生産管理システムの開発を行っている。前者の開発には工作機械など生産現場の機器に対して、工程管理や稼働監視、不具合解析などを行うことができるORiNの活用もなされている。ちなみにこのORiNの開発にも技研が貢献している。これらシステムにより、作物の作りすぎや、市場投入のチャンスロスの提言につながっており、成功事例として、ベビーリーフ栽培向け生産管理システムを紹介した。また技研は、農業法人と製造業の交流を実現する、コンシューマーアグリ研究会の事務局としても機能していることも挙げた。
 モノづくりを担う中小企業にとって、大きく2つの方向性があり、ひとつは生産技術を向上させ、メーカーとなること、もうひとつは生産技術を高めつつ、デジタル化を進め、段階的にIoTやAIの活用に結びつけていくことを示した。従来の中小企業は単一工程のみ受注することが主流であったが、今日では製品の生産に限らず、生産管理から企画、設計の分野まで取り組み、顧客に提供することが求められていることを指摘した。さらに新分野や社会課題に取り組む際には、様々な要素が複合的に使われている技術について、その要素を分解し、再構成・統合して製品化していく段階がますます重要になっていくことを示唆した。

小島プレス工業株式会社 総務統括部 参事 兼子 邦彦 氏の講演
小島プレス工業株式会社 総務統括部 参事 兼子 邦彦 氏による講演の様子

 愛知県豊田市の小島プレス工業(株)ではIoT化の前段階として主に3点の改善、すなわち大量生産方式から少量生産方式へのシフト(設備の小型化)、多工程から単工程の移行(ハイブリット加工)、工場レイアウトの改善(必要な時に必要なだけ生産し出荷する「一気通貫工場」の整備)に取り組んでいる。
 IoTへの取り組みとして、同社はIVI(Industrial Value Chain Initiative)へ参画しており、先の一気通貫工場はその実証実験の場とされた。同工場内にはPepper for Bizを5台導入し、遠隔操作により異常信号を受信、タブレットで確認できる。
 同社では他に製造現場における人工知能の活用に向けた取り組みとしてPepper BRAINがある。PepperにAIのWatsonを搭載させ、たとえばQC指導等のためにQCサークル改善事例等を学習させることに加え、IoTによって工場設備から得た情報をAIに解析させる取り組みも行っている。さらに出荷場ではVRとAIを併せた活用により、大きさの異なる箱の最適なパレットへの積載を学習させる取り組みも行っている。
 今後の取り組みに関しては、IVIと日本原価計算研究学会とが共同で発足させた、IoTとコストマネジメント研究会に参画し、「リアルタイム原価計算」として、工場のラインで原価構成・原価に関わるデータ収集を行い、即時に原価計算を行うシステムを構築するため、協力工場にて実証を重ねている。

武州工業株式会社 代表取締役社長 林 英夫 氏の講演
武州工業株式会社 代表取締役社長 林 英夫 氏による講演の様子。

 東京都青梅市の武州工業(株)は従業員数157名の企業である。パイプ部品や板金を主業としていて、代表取締役の林英夫氏が講演で紹介した実践により、働く人にとってより優しい職場を築きつつ、LCC(ローコストカントリー)価格を実現している。
 同社では加工工程毎に担当者がいる流れ生産ではなく、一人の作業員が一連の加工工程を自らが行う「一個流し生産」体制を採っている。それゆえ、それぞれの作業員は自律的に、責任を持って各工程の加工を担っている。
 この生産体制を支えるのは、一つは外部のインストラクターや社内人材同士による学び合いといった属人的な技能伝承の場を設けていることが挙げられるが、もう1点にはIoT技術ビッグデータなどを駆使した管理システムも挙げられる。
 同社の管理システム「BIMMS」では出退勤から在庫管理、納期・購買管理、生産・品質管理などに対応しており、これにより経理・財務から生産までの全体最適化を可能にするツールである。中でも、生産管理においては、iPod touchを加工機械と連動させてペースメーカーとしているほか、機械停止理由を簡単に入力できるようにすることで、生産性の見える化を実現しており、同社では生産性が約2割向上した。
 現在ではこうした生産性管理やビッグデータを用いた受発注管理の課題を解決するシステムを販売する事業も手掛けている。

株式会社KMC 代表取締役社長 佐藤 声喜
株式会社KMC 代表取締役社長 佐藤 声喜 氏による講演の様子

 神奈川県川崎市の(株)KMCは主に製造業を対象として、IoT、M2M、AI-Managementを通じたソリューションを提供するコンサルタント企業である。講演した同社の佐藤声喜代表取締役社長は、人口減少が始まった日本においては、労働力不足がますます深刻となるとし、社員数が減少する中でも企業として成長する上で、IoTやM2Mを通じた生産性向上が不可欠であると訴えた。
 そうした観点から同社では、生産ライン全体および各生産工程を管理するIoT/M2Mシステムを開発し、顧客となる企業の状況に合わせて管理システムの導入から設置工事までを請け負っている。同社のシステムを実際に導入した企業においては、加工状況の監視による1個保証の実現や不良の予知、生産ラインの停止・不具合の記録による機械の停止時間の削減などを実現している。
 また、こうした管理・記録機能を用いてノウハウの伝承にもつなげている。例えば、金型設計においては、ベテラン設計者が行った指摘や改善指示等を細かく記録することで、若い設計者にノウハウとして共有することを容易にしている。さらにこれにより、同じ失敗を繰り返さないことにもつながることから、不具合の再発防止にも役立っている。
 これらを通じた生産性の向上により、製造業従事者の業務がさらに創造性の高いものになる一助となるよう、同社は貢献していきたいとしている。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子
 パネルディスカッションでは国立研究開発法人 産業技術総合研究所 研究顧問の中島一郎氏をモデレータとして、小島プレス・兼子氏、武州工業・林氏、KMC・佐藤氏に加え、弊所所長・林良造の4人にて、IoT導入における社内人材の確保についてを中心にした議論がなされた。
 兼子氏は、生産現場に近い人材を中心にしてITに長けた人材を中心として環境を構築したが、セキュリティなどに関しては適宜外部の人材や情報システムの人材を活用したことを明らかにした。林氏は3年程度現場で研修を積んだ人材を1人育て、その人材と林氏自身で作り上げたという。外部人材を活用しなかったのは、作りたいモノのイメージについて、伝言ゲームのようになってしまい、自分が作りたいものとのイメージの齟齬が生じる可能性があるためだとした。佐藤氏は、内部でどのようなものを作るのかイメージを具現化した上で、社内の若い人材を育てて担当とすることが必要だとした。
 これら3社に共通するのは社内の人材を中心として現在のシステムを作ったということである。兼子氏も林氏も、社内人材だけでは限界があることを認めたが、いずれにしても社内の能動的な行動と自律的な意識が不可欠であることが示されたように思われる。その上で、最初に社長の一存で始める際には社員からの反発もあるが、ある程度システムの導入が進むと社員も必要な仕組みであることが理解でき、そこからはIoT導入がスムーズになる。その段階までいかに我慢して運ぶかということがカギになるという。
 最後に弊所・林所長は、情報化・見える化を進めることがとても安く簡単になり、なおかつそれに若い人が理解を示していることが重要なのであり、社員全員が情報を共有するという企業文化を形成できるよう、社員の背中を押してあげることが大切なのではないかと述べた。