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超高齢社会に向けた医療・ヘルスケア機器産業の可能性

「平成30年度 機械情報産業講演会 in 富山」のご報告
開催日時 平成30年11月29日(木) 13:00~17:00
場所 オークスカナルパークホテル富山 2階「鳳凰東の間」(富山県富山市牛島町11-1)
テーマ 超高齢社会に向けた医療・ヘルスケア機器産業の可能性
講師 相模女子大学准教授・機械振興協会経済研究所特任研究員 山本匡毅 / (公財)医療機器センター附属医療機器産業研究所上級研究員 日吉和彦 / 機械振興協会経済研究所次長 北嶋 守
内容  11月29日(木)に富山県富山市において、「超高齢社会に向けた医療・ヘルスケア機器産業の可能性」と題し、富山県、(公財)富山県新世紀産業機構、(一社)富山県機電工業会にご後援いただき、講演会を行いました。当日は約40名の皆様に足を運んでいただきました。ご参加いただいた皆様には、厚く御礼申し上げます。
会場の様子

会場には約40名の皆様に足を運んでいただきました(写真はいずれも弊所撮影)



 当日は弊協会副会長兼弊所所長代理の寺田より挨拶を申し上げた後、富山県商工労働部長の伍嶋二美男様からもご挨拶をいただきました。
 その後の講演では相模女子大学人文社会学部准教授で弊所特任研究員の山本匡毅先生、(公財)医療機器センター附属医療機器産業研究所上級研究員の日吉和彦先生、弊所次長の北嶋の3名が報告を行いました。
 以下は、3名による講演の様子と、その内容を簡単にまとめたものです。医療・ヘルスケア機器産業への参入を検討されている企業の方々、またそうした企業を支援されている方々にとってご参考となれば幸いです。

【講演1】「超高齢社会における健康・福祉機器を軸にした地域活性化」
相模女子大学人間社会学部准教授・機械振興協会経済研究所特任研究員 山本匡毅

 山本先生の報告では、日本の高齢化の進展について地域的な差異があることに焦点を当てた上で、地域によって異なる課題が存在することを指摘した。その上で、超高齢化社会に対応する地域政策には①モノづくり、②コトづくり、③まちづくりの3つの観点があるとし、モノづくりに関しては、①保険制度に適合しながら多様なニーズに応えるモノづくり、②従来の健康・福祉機器にはない付加価値を創出する=コトづくりにつながる製品開発、③街やコミュニティづくりを意識した製品開発に該当する事例を紹介した。
 さらに、健康・福祉機器と地域社会に関しては、高齢者向け(福祉機器分野)/対象年齢関係なし(健康機器分野)という軸と、個人向け/地域社会向けという軸の2軸を示し、個人向けの機器や高齢者向けの機器については製品開発が盛んである一方で、対象年齢を限定せず、地域社会一般に向けた製品については開発の余地が大きく残されているとした。こうしたことから、超高齢化社会においては、高齢者のQOLの向上を目的としながらも、その手段として、単に福祉機器を開発するだけではなく、まちづくりの観点から、また高齢者に限定しない形で町全体に健康・福祉機器を埋め込み、「モノづくり、コトづくり、まちづくり」が三位一体となった地域政策と、それに対応した健康・福祉機器の開発が望まれるとした。
相模女子大学人間社会学部准教授・機械振興協会経済研究所特任研究員 山本匡毅先生の講演

山本匡毅先生による講演の様子



【講演2】「超高齢社会における中小企業の医療機器分野への参入課題」
(公財)医療機器センター附属医療機器産業研究所上級研究員 日吉和彦

 日吉先生は、日本の超高齢化に伴う医療費とその国民負担の増大について示し、医療分野の経済面での重要性を述べた上で、国による医療機器産業の活性化について示した。
 医療機器産業は規制産業であり、日米間の貿易摩擦の中で2000年頃に規制強化が行われた一方で、2000年代後半からは日本でも産業として振興の対象とすべく、2度の政権交代が行われた中でも様々な振興策が打ち出されてきた。その結果、特に2014年には健康・医療機器の研究開発および産業振興にかかる4つの法律が整備された。さらに、今後の産業振興に関する有識者委員会では、グローバル展開につながる新医療機器の創出に向け、大手企業はハイリスクの新規治療用機器開発に重点を置くことや、アイデア段階からマーケットを意識することが必要であるとの提言がなされた。
 こうした目標の下、医工連携による医療機器開発が全国各地で推進されているが、以下の5点の理由により失敗する事例が多い。その5点とは、
 ①上市・販売までに必要な期間・投資額の過少評価や製品価格の設定ミスにより採算が合わない
 ②機器開発の経験不足により、事業化が遅れる
 ③薬事申請の知識不足により、事業化が遅れる
 ④保有技術が医療現場のニーズと一致しないため、開発が遅れる
 ⑤特許の正確な調査や特許申請が的確でないため、開発が遅れる
ということである。
 医療機器分野への参入に際して、これらの失敗を避ける上で必要となるのは、
 ①法規制に関しての知識を蓄えること、とりわけ医療者は法規制を知らないことも少なくないため、法規制への対応を医療者に頼らない姿勢が必要である
 ②自分の興味ではなく、誠実に患者のためを考える医療者のニーズに取り組むこと
 ③先行他社の特許を侵害しないか入念に調べること
 ④始めは高度な医療機器を手掛けず、後発で一ひねり改良を加えること
 ⑤時間に対する意識を強く持ち、法規制に対応する人材の採用やコンサル費用は惜しまないこと、また本業の収入が新規事業立ち上げ期を支える
という5点を示し、医療機器分野への参入に向けて活動する企業・団体へのエールを送った。
(公財)医療機器センター附属医療機器産業研究所上級研究員 日吉和彦先生の講演

日吉和彦先生による講演の様子



【講演3】「超高齢社会の課題解決に向けた機械情報産業の新展開」
(一財)機械振興協会 経済研究所 次長 兼 調査研究部長 北嶋 守

 北嶋次長は独自に行ったアンケート結果からみえる中小製造業企業の医療・福祉機器開発に関する取り組み状況と、ヒアリング調査などによる中小企業による製品開発の実態について示した。
 アンケートの中では、中小製造業企業がヘルスケア機器市場に対して、ソフトウェアよりもハードウェアに関して興味を示しており、また連携相手として異業者や国内の大学・研究機関や自治体・公的支援機関などを重視している一方、海外との連携についてはあまり積極的でない姿勢が明らかになった。また、アンケート対象企業内部での社員や社員の家族の高齢化に対して、熟練技術・技能継承や高齢化に対応した作業環境の整備、休暇制度の導入などの対策を行っているか現在検討中の企業が半数以上を占めていた。  
こうしたアンケート結果を基に、国内のヘルスケア産業に関して行ったSWOT分析では以下のような結果が示された。
 ①強み:生産技術、品質管理、製品開発力
 ②弱み:価格競争力、国際競争力、マーケティング・販売
 ③機会:国内超高齢化、海外高齢化、(中国除く)アジア市場
 ④脅威:中国企業、米国企業、欧州企業、(中国除く)アジア企業
 このような環境の中での、ヘルスケア機器の開発事例として移乗支援機器やパワーアシストハンド/レッグなどが紹介され、その中では製品開発の段階に応じて、大学や病院、福祉施設などといった、適切な相手との連携を通じて製品が上市に至る過程が示された。
 そして結論として、①開発段階に応じた多様な要素間の連携の必要性、②地域社会と企業の関係を深化させ、地域社会に根付いた開発を行うことの重要性、③生産体制や販売戦略といった出口を見据えて開発することで、試作段階で頓挫してしまう事態、いわば「試作の墓場」を増やさないこと、の3点を訴えた。
(一財)機械振興協会経済研究所 北嶋次長の講演

弊所北嶋次長による講演の様子



 これらの研究報告が富山県内をはじめとした企業や行政など、関係するの方々の活動におけるヒントになれば幸いでございます。