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研究会・イベントのご報告 詳細

「設計試作が速くて安い特異的半導体エコシステムに向けた 政府『半導体戦略』の具体化を ―CASE=ミリ波5G、DX、グリーン化待ったなし―」

WEB講演会開催 第 440 回 機振協セミナー「設計試作が速くて安い特異的半導体エコシステムに向けた 政府『半導体戦略』の具体化を ―CASE=ミリ波5G、DX、グリーン化待ったなし―」のご報告
開催日時 令和3年7月20日(火)13:30~15:00 
場所 Web システムにより開催( CISCO Webex )
テーマ 「設計試作が速くて安い特異的半導体エコシステムに向けた 政府『半導体戦略』の具体化を ―CASE=ミリ波5G、DX、グリーン化待ったなし―」
講師 機械振興協会 経済研究所 首席研究員  井上 弘基 氏
内容  7月20日(火)にWebシステムにより一般財団法人機械振興協会経済研究所調査研究部主席研究員 井上弘基氏を講師として、第440回機振協セミナー「設計試作が速くて安い特異的半導体エコシステムに向けた 政府『半導体戦略』の具体化を ―CASE=ミリ波5G、DX、グリーン化待ったなし―」を開催致しました。当日は、全体で94名のオンラインによるご参加を頂きました。ご参加頂いた皆様には、厚く御礼申し上げます。


【講演内容】

 半導体産業は米中対立のカナメであるだけでなく、EUも一極に喰い込もうと必死に産業政策を模索している。他方で「半導体不足」も世界的問題になっている。そうした世界環境の中で経済産業省情報産業課は、「半導体・デジタル産業戦略」を公表した(2021年6月4日)。本講演は、次の段階として問われるところの同「戦略」の具現化に際して、“世界の中でどういう特徴を日本としてアピールしていくべきか?”に焦点をあて、日本が持つリアルな経済資源(技術、ヒト、会社、工場、顧客基盤等)と世界の現状を比較考量すれば、「設計・試作が速くて安い、半導体エコシステム」拠点としての日本という「場」を売込むべきではないか?という問題提起(提言)を行ったものである。

 残念ながら、「場」(環境)として、今の日本は世界から注目される場になっていない。どうしたらよいか。まず日本の現状を整理し、次に進むべき方向と提示する:

・第1:  半導体を戦略的に活用しようとするグローバルな顧客企業(サービス〜システム系)が殆どいない。GAFAMなどが、自社のサービス事業での勝負にあたり、半導体チップ自前化(設計)などを差別化基盤として利用しようと、“垂直自前化統合”まで踏みだしているが、日本企業でそうした企業は目立たない。つまり日本は、半導体産業(供給視点)が衰えたと、かまびすしいが、それ以前に、半導体を利用しようとする「市場」(需要側)が衰えている。市場・需要が盛上がっていない場に、わざわざ海外からアクセスしたいとは誰も思わない。

・第2: 「場」はハコものではない。機能する生態系でなければ、誰も寄りつかない。しかも世界と差別化された、特色ある機能でなければならない。米中(およびEU)は超大国的・大陸的な力業が、彼らの得意であり、力づくにハイパフォーマンス(高スループット)なチップ、ハイパフォーマンス版に適した環境整備に焦点を当て、かつ、世界の“親分”であることをアピールしたい。日本は、それらと違って、いわば“ウラ地の民主化リーダー”として世界を惹きつけられるはずである。ウラ地とは何か? 大電力・高スループットのハイパフォーマンスチップも、必ず “周辺”チップを必要とし、その部分が、サイバーとフィジカルの界面で、両者を変換・接合する。両者は互いを、必須とし合う。ウラ地は、ハデではないが、すべてのオモテ地に付くもので、実は広大な世界市場がある。多くはハイパフォーマンスリーダーの側に分割支配されるが、「どっこい、それが無いと困る」を「寡占化」すれば、ウラ地も強い。であるからその培養・養生に励む(ベンチャーテコ入れ)。「場としての機能」の一つは、連携/買収したいコア技術を外部暴露している企業体/事業体があること、、である。それが求心力であり、機能の一つである。
“周辺”チップとしては、まずアナログ(ミクストシグナル)チップがあろう。しかし狭く解釈する必要はなく、クラウド・センターに対するエッジ系サーバー(MEC)や、最末端(エンドポイント)に必要な、ロジックを含むもろもろのチップもある。往々、低消費電力・低レイテンシ(リアルタイム応答性)が特色になり、その点を根気よく詰めていく作業が必要。
また「メモリー」も、ある種、コンピューティングにおける必須な周辺と言え、死活的に重要(キオクシア社)。とくに今後ますますメモリーは周辺系というより、コンピューティング中枢のようなあり方に近づいていくので、決定的であろう。
またチップの種類やグレードに応じて、それぞれ設計「環境」がある。半導体設計ツール(EDA)は米欧系に寡占されているとはいえ、そこにも工場との界面を成すプロセス・デザイン・キット(PDK)や、半導体IPブロックなどの各種ライブラリ揃えが必須で、そちらのほうが顧客からみたユーザビリティを決めている。ゆえにそこの整備、とくに微細化メガ・ファブ(TSMC等が得意)でない、国内ファブのユーザビリティをDX化で上げるべきだろう。つまり、設計=製造の界面が、DX化を通じて世界的トップの暴露性を有する環境づくり。

・第3:  半導体製造「装置」・材料が日本は強いという一部神話は曖昧である。全装置の中で牽引リーダーシップを握るのはリソグラフィ露光機だが、その世界寡占を日本は失った(ニコン、キヤノン→蘭ASML社)。ASML-EUV露光機は、メガファブ・巨大需要に最適化するよう設計された結果、高価・巨大・大消費電力の装置に仕上った。日本はそれに対するアンチテーゼを提供できるはずで、挑戦すべきである=「グリーンEUV」。

 以上、すべてが、「速く、安く、設計・試作が回る」環境づくりに肝要なコア技術ないし特異な技術編集(体系化)である。メモリーとイメージセンサのような一貫半導体事業(IDM)の世界的競争力の維持・再生産に加えて、上記のような「場」とその世界的暴露が上手であれば、今は地味に潜っている日本のクルマや産業機械メーカーでの半導体利用をもっと大胆なものにしたり(国内市場開拓)、世界をも惹きつける「場」になり得よう(外需呼込み)。

申込書2(PDF)