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「地域・中小企業のデジタル活用、先端技術活用の支援」

主催:(一財)機械振興協会経済研究所主催 第490回機振協セミナー「地域・中小企業のデジタル活用、先端技術活用の支援」開催報告 オンデマンド配信あり 
開催日時 2025年12月9日(火)13:30~15:30
場所 WEBシステムにより開催(Zoom)
テーマ 「地域・中小企業のデジタル活用、先端技術活用の支援」
講師 講師:国立研究開発法人産業技術総合研究所 製造基盤技術研究部門 招へい研究員 手塚 明 氏                                       国立研究開発法人産業技術総合研究所 北陸デジタルものづくりセンター 所長 芦田 極 氏
内容 コメンテーター:一般財団法人機械振興協会 副会長 兼 技術研究所 所長 西本 淳哉
モデレーター:一般財団法人機械振興協会 経済研究所 特任研究主幹
       武蔵野大学国際総合研究所 客員教授 中島 一郎 氏

2025年12月9日(火)にWebシステムより、第490回機振協セミナー「地域・中小企業のデジタル活用、先端技術活用の支援」を開催しました。講師は、国立研究開発法人産業技術総合研究所 製造基盤技術研究部門招へい研究員の手塚明氏、国立研究開発法人産業技術総合研究所 北陸デジタルものづくりセンター所長の芦田極氏にお願いしました。また、コメンテーターは、機械振興協会副会長 兼 技術研究所所長の西本淳哉が務めました。なお、モデレーターは機械振興協会経済研究所特任研究主幹 兼 武蔵野大学国際総合研究所客員教授の中島一郎氏にお願いしました。当日は、53名の方々にオンラインでご参加いただきました。ご参加いただきました皆様に、厚く御礼申し上げます。


【講演内容】

 本セミナーでは、国の機関である産業技術総合研究所の地域・中小企業支援の取組に関して、2つの講演を行った。

 講演1では、「違いを楽しみ活かしながら、人や組織に変化を起こす仕組みと仕掛け」と題して、産業技術総合研究所 製造基盤技術研究部門招へい研究員の手塚明氏が、組織内の対話と連携の重要性について講演した。
 先ず、DXや中小企業の改革において、技術的課題だけでなく適用課題があるとの指摘があった。組織内では、立場や専門の違いによる対立や、一方通行のコミュニケーションが起こりやすく、それが改革を停滞させる要因になっている。こうした状況を乗り越えるためには、対話を通じた連携が不可欠であり、その際に重要なのは、共通項でまとめるのではなく「違い」に着目する視点であると強調された。違いに目を向けることで上下関係の色が入りにくくなり、多様性をそのまま活かすことができるという。
 また、問題と課題は異なるものであり、多くの場合「問題の立て方」自体が問題であることも指摘された。現状と理想、阻害要因と制約条件に対する認識がリーダーとメンバーで異なることが、問題解決のためのコミュニケーションを難しくしているという。そうしたことを無視してアイディアを無理に出すよりも、個々人の経験や考え方を共有することで、結果として問題解決につながる発想が自然に生まれると説明された。
 一方で、多様な意見を活用する際の課題についても言及された。単純に多様な意見を平均化すると価値が下がるという研究が紹介され、異なる専門性や認知バイアスを意図的にぶつけ合う重要性が示された。主観同士を対話させることで客観性が生まれるという考えのもと、会議では発言よりもフレームへの書き込みを重視する並列的な議論が有効であり、リモート環境でも意見を出しやすくなるとされた。
 具体的な手法としては、会議のすれ違いや暗黙知の断絶に対し、「デザインブレインマッピング(DBM)」というフレームを用いて可視化する解決策が紹介された。DBMでは参加者それぞれの言い分や立場を想像して書き出し、実際の意見と対応させる。これにより、相手への誤解や思い込みが可視化され、議論が前に進むようになる。また、ベテランが伝えたい内容と若手が学びたい内容を整理し対応付けること(匠トーク)で、知識や経験の共有が円滑に進む事例も示された。また、理由(Why)を自然に引き出せる構造を設計することが、納得感の高い合意形成につながると述べられた。
 最後に、実践事例を通じ、違いを活かすためには、心理的安全性とフラットな対話の雰囲気を整えることが重要であり、それによって組織に変化が生まれることが示された。また、産業技術総合研究所では、課題を抱える当事者チームが問題解決の方法を自ら考え、問いや答えに到達できるよう支援を行っていることが紹介された。

 講演2では、「小さな小さな産総研地域センターの連携戦略」と題して、産業技術総合研究所北陸デジタルものづくりセンター所長の芦田極氏が、北陸デジタルもの作りセンターの活動と、小規模な組織だからこそ全国に広がる産総研ネットワークを活用する連携ハブ機能について講演した。
 北陸デジタルもの作りセンターは2023年に設立された産総研の政策拠点の一つであり、福井・石川・富山の3県を対象とする点に特徴がある。産総研には全国に地域拠点が12があり、常勤・契約職員あわせて約6000名が所属するが、北陸センターは研究職実質5名という非常に小規模な体制で運営されている。
 産総研の地域拠点には、地域産業の課題解決や地域イノベーション創出をミッションとする「地域センター」と、その時々の国の重点政策課題に対応する「政策拠点」がある。北陸センターは政策拠点に位置づけられる一方で、福井・石川・富山の3県を対象とする地域センター機能を併せて持つ点に特徴がある。また、北陸センターは研究と連携を両輪とし、北陸地域で従来から盛んな繊維産業、産業機械、金属加工といった分野の高付加価値化支援を、設立時のミッションに掲げている。
 ただし、北陸センターは研究部隊が小規模であるがゆえに、研究成果を自らだけで地域に普及させるのは容易ではない。そのため、北陸センターは全国の産総研と結び付ける「連携ハブ」として機能することを重視し、ネットワークを活かした活動を展開している。
 また、近年では、地域の自治体、とりわけ福井県との連携が急速的に深まっている。県は産総研活用推進会議の開催や、産総研と連携する企業への補助制度創設など、積極的な支援を行っている。福井県工業技術センターと隣接したロケーションから人員の交流も活発である。こうした後押しを受け、北陸センターは地域企業との共同プロジェクトを次々に展開している。
 その具体的な取り組みとして、「桜マラソンにおけるランニングDXプロジェクト」が紹介された。これは、産総研が保有するモーションキャプチャー技術を活用し、走行時の筋肉状態を可視化し、その解析結果が後日参加者にフィードバックするものとなっている。デジタルもの作り技術が地場産業の可能性を拡大させた事例であり、参加希望者が定員を超えるなど高い関心を集めている。
 また、IHI、福井県、産総研の三者による航空機部品高度化を目的とした大型共同研究ラボ「冠ラボ」についても説明があった。北陸センター自身は当初この分野の研究実績を持っていなかったが、全国の産総研ネットワークを活用することで、短期間で立ち上げることに成功した。設立から間もないにもかかわらず、当該ラボは、冠ラボの中でも最大級の規模に成長している。

 講演後は、機械振興協会副会長兼技術研究所所長の西本淳哉によるコメントが行われた。手塚氏の講演について、多様性を活かす方法や、ファシリテーターが頑張る会議は良くないという考え方に新たな気づきを得たと評価した。また、日本企業で世界に先駆けて社内での開発提案が上がっていたのに商品化にいたらなかったロボット掃除機の例を挙げ、企業内で議論すると丸くなってしまい、クリエイティビティが失われる問題があると指摘した。芦田氏の講演については、産総研ネットワークの末端である小さな組織が産総研全体の大きな組織ネットワークを活用する戦略が面白いと評価した。また、機械振興協会技術研究所で経済産業省に協力しているRINGプロジェクト(ロボットの中堅中小企業への導入)においても、各県の公設試の連携を基盤にしたネットワークで勝負する必要があり、北陸センターの手法が参考になると述べた。
 質疑応答では、手塚氏のフレームワークにおける軸の取り方や、芦田氏の地場産業ニーズの吸い上げ方について、中島氏からの質問があり、盛況裏に終了した。



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