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【コラム】「中小企業を正しく知る」

中小・ベンチャー経済事情

  • 職位:
  • 特任フェロー
  • 研究領域:
  • 中小企業論、中小企業経営論<BR>

2019年12月23日
機械振興協会経済研究所 特任研究員 関 智宏

1.日本における中小企業


日本では、「中小企業は量的に重要である」と言われる。日本の企業数は、2016年の経済センサスによれば、全企業で359万ほど存在しているが、そのうち中小企業は99.7%を占めている。逆に中小企業でない企業は大企業になるが、0.3%しか存在していない。圧倒的大多数は中小企業なのである。中小企業で従事する従業者を総数でみると、全労働者の68.8%を占めている。もちろん大企業1社あたりの雇用規模は1000人や1万人などと多いが、従業者の総数でみると3割と少ししかない。このように、日本における中小企業は企業の数が多いこと、また働く人たちの数が多く、これらをもって、中小企業は量的に重要であると言われる。
日本における中小企業は、法律による規定がある。この法律は中小企業基本法であり、この法律においてのみ中小企業の範囲が規定されている。規模を定めるために、日本では量的定義が採用されており、従業員数と資本金額の2つの量的指標がもちいられている。従業員数が何名以下、資本金額がいくら以下というように決まる。企業にはさまざまなビジネスがあるが、ビジネスによって必要となる資金の額や社員の数が異なることから、日本では製造業、卸売業、小売業、サービス業のおもに4つの業種ごとに中小企業の範囲が規定されている。この範囲の中に入った企業は、法的に中小企業となる。

表 中小企業基本法における中小企業の範囲規定<BR>
表 中小企業基本法における中小企業の範囲規定
出所:『中小企業白書』


2.高まる中小企業への期待


こんにち、日本では政府を中心に「中小企業は大事である」と言われている。1990年代にバブルが崩壊し、さらに90年代末には金融危機や不良債権問題が起こり、日本を代表する企業が倒産するのではないか危惧されるなど、日本経済にとって大変厳しい時期があった。この時代には、大企業を中心に多くの企業の経営状態が悪くなり、多くの社員がリストラされ、早期退職を余儀なくされた。
しかしながら、日本の経済社会の企業活動をよく見ると、日本には規模は小さいが、非常に多く存在しながら、就業の機会を増大させる姿が着目されるようになった。そしてその果たしうる役割は、新規事業の創出、市場競争の促進、地域経済の活性化など諸点において、大企業よりも大きな可能性を秘めていた。そして政府は「日本経済の再生、成長していくために中小企業は大事である」とし、中小企業こそそれらの役割を果たす存在として、中小企業基本法を1999年に改定することになった。中小企業に対する期待は、それ以降、現在においても、高いままであり、2010年には「中小企業憲章」が制定され、この憲章の本文の冒頭には「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」と明記された。

図 中小企業憲章
図 中小企業憲章
出所:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/sonota/ChushoKensho.pdf

3.中小企業とは何か:異質多元性


それではどのような企業が中小企業なのであろうか。社員が数名の会社と社員が100名の会社は、同じ中小企業といえるであろうか。社員が数名しかいない企業で資金調達をどうするか、あるいは社員をどう育成するかという課題と、従業員が数百人もいる企業とでは、その課題の質が異なる。このように、中小企業といってもどのような「規模」を想定して捉えるかによって、その中小企業の姿が異なる
。 このことは「業種」も同じである。製造業とサービス業は異なるビジネスである。「創業年」も同じである。老舗企業と創業まもないスタートアップ企業とは同じ中小企業であるとは言えない。「成長志向」も同じである。中小企業の規模のままでいる経営スタイルと、ベンチャーのように事業規模を拡大していく経営スタイルは併存するが、中小企業といっても成長志向が異なる場合がある。これらのように、中小企業と言っても、捉えるかたちによってさまざまな姿になる。このことから、中小企業は「異質多元性」と呼ばれる。中小企業は多様な存在なのであり、その個性はキラリと輝いている。いろいろなかたちで存在している多様な姿が、中小企業の魅力なのである。

4.知られていない中小企業とそのイメージ


中小企業は多様なかたちで存在しているが、その反面、中小企業がどのような企業であるかについては一般的にほとんど知られていない。筆者が担当する中小企業論を履修する大学生に「大企業の社名を5社あげてください」と言うとすらすらと答えるのに対して、「中小企業を5社あげてください」というとほとんどが答えることができない。大学生の自宅の近くにも中小企業は数多く存在することがある。学生たちもその企業の存在は言われれば知ってはいるものの、どのような企業かは即座には思い出すことができないことが多い。政府は、中小企業は大事であると言うが、中小企業は日本の社会では一般的に知られていない存在なのである。
どのような企業かは知らないにせよ、中小企業と聞くと何となくわかっているような気になる。中小企業のイメージを大学生に聞くと、一部は悪いイメージをもつことがある。たとえば「大企業と比べて中小企業は給料が低い」、「仕事内容が大変そう」、「ブラック」などといったイメージである。ある学生が仮に「中小企業に就職する」と親御さんに言うと、親御さんにも「中小企業は経営が安定していない、条件が悪い」というイメージがあるらしく、「もっと有名な会社にいけ」とか「安定した会社にいけ」と言われることがあるという。
しかしながら、中小企業が有するこれらの悪いイメージは、本当に事実なのであろうか。一方で、大企業は本当に安定しているのであろうか。中小企業と聞いて何となく悪いイメージを抱くとすれば、中小企業が本当に悪いのかどうか、それを検証しなければならない。もしかするとそれはイメージだけで真実ではないかもしれない。そもそもどういう企業がどういうビジネスをしているかを知らないままに、中小企業と聞くだけで悪いイメージを抱くというのは、大きな問題であろう。

5.中小企業の社会的認知度を上げ、そのイメージを改善していく


中小企業は日本の企業の99.7%を占めているが、これは統計をとりだした1960年代から変わっていない。中小企業が日本社会に多く存在しているからこそ、日本は経済発展の路を歩んできた。中小企業こそ日本の経済社会を支えてきたし、今後も支えていく。中小企業経営者のなかには、自身のことを「自営でやっている」と謙虚に、または「小さな会社で家族経営です」と申し訳なさそうに言うことがあるが、こうした経営者は企業の規模は小さいが、家族の生活を支え、場合によっては子どもたちの学費などさまざまなサポートを実現してきた。これは経営者自身が、中小企業の経営を堅実にしてきたからである。中小企業には中小企業ならではの役割があり、日本の経済社会において重要な存在なのである。
中小企業は知名度がないばかりか、悪いイメージを伴う。しかしそれらは先入観ないし偏見であろう。これらの見方を変えていくことが重要である。当然のことながら、中小企業のなかには「良い」企業も存在している。「良い」中小企業の存在をわれわれが知っていくということが重要であるが、それではどのように知っていけばよいのであろうか。その1つは、すでに公開されている情報の活用である。近年、政府もメディアでも中小企業が個々に紹介されるようになった。中小企業を知る機会は着実に増えつつある。

6.中小企業を訪問する:経営者との信頼関係の構築


またもう1つは、中小企業を直接的に訪問し、経営者との対話から中小企業を知っていくという方法である。「中小企業を知らないなら知っていこう」という活動である。中小企業は上場企業ではないため、自社に関する情報を社会に公開する義務はない。このこともあり、中小企業に関する情報は、一般的には公開されていない。われわれが中小企業を知っていくためには、中小企業に直接アクセスして、その企業から独自に情報を入手しなければならない。中小企業に関する書籍を読んだとしても、中小企業のリアルな情報はそこには書いていない。われわれは、中小企業に訪問して経営者と会い、経営者にインタビューをし、話を引き出すことが重要となる。
しかしながら、中小企業の経営者は、自社のとくにリアルな情報は容易に提供してくれない。経営者が社外にその情報を提供する必要性を感じないためである。われわれが必要な情報を入手するためには、経営者との対話を通じて情報を得ていくスキルが必要となる。またインタビューの時間は有限であり、このなかで必要な情報を入手しなければならない。このため、われわれが初めてその経営者に実施するインタビューから得られた情報というのは、極めて表層的なものにしかならない。われわれが経営者から必要な情報を的確に入手することができるようになるためには、経営者との関係づくり、いわゆる信頼関係の構築が必要となる。経営者との信頼関係が、豊かな情報を引き出すための潤滑油になるのである。

以上

【了】

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No.12(2019年12月)

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