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「中小企業によるアントレプレナーシップとしての国際化—日本の中小製造企業によるベトナム進出のケースから—」

第455回 機振協セミナーのご報告 「中小企業によるアントレプレナーシップとしての国際化—日本の中小製造企業によるベトナム進出のケースから—」
開催日時 2022年9月21日(水)13:30~15:00
場所 WEBシステムにより開催
テーマ 「中小企業によるアントレプレナーシップとしての国際化—日本の中小製造企業によるベトナム進出のケースから—」
講師 同志社大学 商学部 教授                                    機械振興協会 経済研究所 特任研究員 関 智宏
内容  2022年9月21日(水)にWebシステムより、第455回機振協セミナー「中小企業によるアントレプレナーシップとしての国際化―日本の中小製造企業によるベトナム進出のケースから―」を開催しました。講師は、同志社大学商学部教授・機械振興協会経済研究所特任研究員の関 智宏氏にお願いしました。当日は37名にオンラインでご参加いただきました。ご参加いただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。


【講演内容】

 中小企業を念頭に置いた国際アントレプレナーシップ(international entrepreneurship:IE)に関する議論は、近年活性化しているが、中小企業の国際化をアントレプレナーシップとして、すなわちentrepreneurial internationalizationとして捉えようとする研究は極めて限定的である。本研究は、中小企業によるアントレプレナーシップとしての国際化という現象を、日本の中小製造企業を対象に、より具体的に捉えていくことを目的としている。
 本講演では、まず、先行研究のレビューならびにクラスター分析の結果から、中小企業によるアントレプレナーシップとしての国際化を捉える際の重要な要素として、①ネットワーク、②起業志向、③組織能力、④知識を抽出し、それらの関連を示す分析モデル(「NEOKモデル」)を提示した。そして、中小製造企業1社(東大阪市の機械金属受注型中小企業)の国際化(ベトナム・ホーチミン)を事例に、分析モデルの精緻化ならびに拡張をおこなった。
 ケース・スタディの結果、上記の分析モデルはおおむね支持された。同社は人材確保の課題から、2003年以降ベトナム人技能実習生を確保し、実習生は技能向上に対する努力や意欲を高めた(組織能力)。企業家は生産拠点としてベトナムへの国際化を検討し(起業志向)、国際人材として2008年に4名を直接雇用した(組織能力)。そのうちの2名を現地法人の社長・副社長候補として教育(起業志向)またはベトナムと日本との行き来をさせ(ネットワーク)、日本企業内でもベトナム人との協働のためにさまざまな取組がなされた(組織能力)。リーマンショックの影響を受けて、拠点設立は延期となったが、その間、現地情報の収集を行い(知識)、2014年にベトナム駐在員事務所を設立し(組織能力)、ローカル企業のニーズを把握しながら取引先を開拓した(ネットワーク、知識)。  このように、ケース・スタディから以下の理論的含意が導出された。第一に、分析モデルに「組織能力(駐在員事務所)→ネットワーク(現地の外注ネットワーク)」という関連を発見・追加したこと、第二に、分析モデルのすべての要素が、中小企業の国際化過程において時間経過とともに変容すること、第三に、国際化推進のために日本企業家の相手国に対する感嘆/包摂力が働いていること(中小企業としたゆえの特性)である。また、経営・政策的含意として、①進出先の国・地域出身者を中心とした国際人材の確保と育成、②進出先の国・地域に対する企業家の理解、③中小企業の国際化に対する時間をかけた取組・支援を指摘した。そして、今後の課題として、分析モデルのさらなる精緻化、「文化的知性」との関連の検討、国際アントレプレナーシップの議論との関連の検討が挙げられた。

 講演後は海外からのオンライン参加者からも質問も含め、積極的な質疑応答が行われた。とくに、中小企業の国際化に対する具体的支援について議論された。ケース・スタディから明らかなように、中小企業の国際化には時間を要する。早期の直接投資はハードルが高いため、現地での国際人材の育成やネットワーク形成に対する長期的な伴走型支援が必要との見解を示し、講演を終えた。