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【コラム】「地方中小企業の持続性」

中小・ベンチャー経済事情

  • 職位:
  • 特任フェロー
  • 研究領域:
  • 経済地理学、地域政策論、産業論

2020年3月6日
機械振興協会経済研究所 特任研究員 山本 匡毅



1. 地方中小企業の持続性と業種転換


 日本には中小企業が約358万社ある(図表1)。そのうち、大都市に立地する中小企業が56.3%であるのに対し、地方に立地する中小企業は43.7%を占めており、地方の中小企業の存在は決して小さくない。

図表1 2016年の地域別中小企業数(非一次産業)<BR>出所:中小企業庁ホームページより筆者作成
図表1 2016年の地域別中小企業数(非一次産業)
出所:中小企業庁ホームページより筆者作成



 地方の中小企業には様々な業種があり、多様性が存在する。その中には100年企業と呼ばれる老舗企業も含まれる。このように地方の中小企業が多様な中で持続性を有するのはなぜであろうか。そのポイントは業種転換にあると考えられる。昨年(2019年)に山田英夫・手嶋友希『本業転換——既存事業に縛られた会社に未来はあるか』KADOKAWAが上梓された。同書は、大企業が如何に業種転換を行ったかによって、その後の盛衰を分けたかを明らかにしている。
 同書の指摘する企業の盛衰を分ける業種転換は、中小企業でも同様に行っているものと考えられる。とりわけ大都市と比べて人口減少が進み、生産の海外移管が進んだような経営環境の厳しい地方の中小企業が持続してきた要因は、事業環境に適応した業種転換ではないだろうか。

2. 老舗企業としての地方中小企業


 老舗企業というと、歴史のある京都府がイメージされる。例えば、京都府の代表的な老舗企業は任天堂株式会社(以下、任天堂)である 。任天堂は1889年に創業し、元々、花札製造を目的とした中小企業であった。その後、1960年代にボードゲーム、1970年代に家庭用ゲーム機へ進出したことで、1980年代のファミリーコンピュータの大ヒットに結び付いた。現在では、ゲーム機器・ソフトを扱うグローバル企業である。京都府は西陣織などの地場産業もあり、大企業に関わらず、老舗企業が多いのである。
 それでは老舗企業(100年以上の歴史を持つ企業)が2番目に多い県はどこであろうか。図表2に示したように、山形県であり、老舗企業比率は京都府に匹敵している。しかし、山形県には京都府のように全国的な知名度を持つ老舗企業があるだろうか。そもそも山形県には大企業が64社(2016年)しかない。それゆえ、全国的知名度を持つ企業そのものが少ない。例えば2020年に経営破綻した県内唯一の百貨店である大沼は創業1700年であり、320年に亘り事業を持続してきた老舗企業であった。大沼は、実は全国の百貨店の中で松坂屋、三越に次ぐ老舗企業であり 、単なる地方デパートの経営破綻の持つ意味とは異なるものである。

図表2 都道府県別老舗企業比率の上位10府県(2019年11月)<BR>出所:「日本経済新聞」2019年12月2日付朝刊より筆者作成
図表2 都道府県別老舗企業比率の上位10府県(2019年11月)
出所:「日本経済新聞」2019年12月2日付朝刊より筆者作成



 老舗企業比率の3位以下も新潟県(3位)、福井県(5位)、島根県(6位)などが名を連ねており、大都市に位置する都府県は、京都府と滋賀県以外が出てこない。このように、老舗企業を考える上で、地方の中小企業は中心的役割を担っている。

3. 松岡株式会社(山形県)の事例


 本節では山形県の老舗企業である松岡株式会社(以下、松岡)を紹介する。松岡は、1887年に鶴岡町(当時、現鶴岡市)に松岡製糸所として創設された。松岡製糸所は社名の通り、製糸業を営む企業であり、旧庄内藩が戊辰戦争後に藩士が産業振興のために開設した松ヶ岡開墾場を母体として、その絹織物の原料供給を担っていた 。1942年には株式会社化を実施、社名も1970年に松岡協同製糸株式会社へ改称し、さらに1987年に現社名になった。
 同社は長らく製糸業の専業メーカーであったが、1972年には山形県村山市に村山工場を開設し、婦人服製造部門を新設した。これが本業転換を開始した第一歩である。この時は繊維という技術の共通性の中で本業の転換を図っていった。

図表3 松岡株式会社の本業転換<BR>出所 筆者作成
図表3 松岡株式会社の本業転換
出所 筆者作成



図表4 松岡株式会社が内装品を供給しているボーイング787型機<BR>出所 筆者撮影
図表4 松岡株式会社が内装品を供給しているボーイング787型機
出所 筆者撮影



 同社がより本格的な本業転換に進むのは、1983年に本社工場へ電子部門、村山工場へ電器部門を新設したことによる。この背景には製糸関連事業の売上の減少があった。電子部門と電器部門ではプリンタなどの電子機器部品の製造を行い、1990年にはシステム部門も新設した。これによって、同社の中核事業は製糸業から電子・電気部品製造へ変わった。
 2000年代に入り、地方にも産業空洞化の波が進んできた。2004年には現社長の氏家昇一氏が入社し、新たな中核事業の模索を開始した。この頃、山形県企業振興公社が主催する広域商談会で、同社は航空機内装品メーカーとマッチングした。これは2006年以降に同社が航空機内装品事業へ本業をシフトする契機となった。
 松岡はこの時期までに電子部品加工や組立のみならず、金型製造の技術も有していた。しかしながら不足していた最新の機械加工や3次元CADなどの技術を新たに取り込み、機械関連の技術を共通点として航空機内装品事業を本格化した。同社では世界を飛ぶボーイング社の787型機向けギャレー(キッチン)やラバトリー(トイレ)の製造に参画している。また世界の航空機メーカーの双璧をなすエアバス社向けの内装品も手掛けている。
 今では米国で生産される787型機の5分の1の内装品に松岡が製造したものが使用されるようになっている。また航空機内装品メーカーからの同社の信頼も厚い。他方で、今も製糸業を営んでおり、全国で数社の製糸業者となっている。これらの実績から2018年12月には経済産業省から地域未来牽引企業にも選定され、社員400人を抱える地域中核企業として発展している。

4. 地方中小企業の持続的発展に向けて


 本稿では、地方中小企業は老舗企業の中心的存在であることを確認し、その事例として松岡株式会社の本業転換から検討してきた。地方中小企業の中には、創業時の本業を維持して発展している企業も少なくない。一方で、創業時の本業から何回か転換させながら、企業を発展させているところもある。今回取り上げた松岡株式会社は典型例である。
 地方中小企業が持続的に発展するためには、新産業への参入も厭わないことが示された。新産業への参入は、ベンチャー企業や大企業だけではなく、地方中小企業でも盛んに行われ、地方中小企業が持続的な発展を遂げる原動力になっている。
 Industrie4.0、AIの発展、人口減少・高齢化、グローバル化など、産業構造の変化は新たなビジネスチャンスを生み出す。地方中小企業はこの変化から生まれる新産業を常に見ている。時代とともに生じるビジネスチャンスを得て、地方中小企業は持続的発展を進めていく。この変化をチャンスと感じる経営ができるかどうかが、地方中小企業の持続性を左右する分岐点となるものと考えられる。


¹ 大都市には東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県、愛知県、岐阜県、三重 県、大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県を含む。地方はその他の道県である。
² 徳賀芳弘編著(2016)『京都企業 歴史と空間の産物』中央経済社、pp.143-146。
³「毎日新聞」電子版 2020年1月27日。
⁴ サムライゆかりのシルクホームページ ( https://samurai-yukarino-silk.jp/samurai-silk/#katana-to-hoe/ 2020年2月19日確認)

【了】

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No.14(2020年3月)

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