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故障の影響解析(FMEA)と、故障の木解析(FTA)の活用 詳細

事象記号、移行記号と論理記号

 FTAに用いられる記号は、「事象記号」、「移行記号」と「論理記号」に分けられます。

-事象記号-

 事象とは確率論などに現れる用語と同じで、欠陥が起こる可能性を示していますが、まれに欠陥がない場合にも用いられることがあります。通常では欠陥のない事象もあります。
 FTAは視覚に訴える情報交換のツールなので、それを見た人が説明無しで理解できることが重要です。したがって、あまり複雑な論理記号を使用するのは避けてください。もし、一般的でない論理記号を使用した場合は、FT図の中に注記等で説明を加えることが望ましいでしょう。

No名称記号説明
1事象
短形の枠

欠陥のあるケースを示します。論理記号の下部は入力(原因)で、上部は出力(結果)を表します。一番上がトップ事象、途中が中間事象といいます

2基本事象
丸型の枠

これ以上展開できない基本的なケースを示します。常に理論記号の入力となります。

3非展開事象
菱形の枠

情報不足や、技術内容が不明なため、これ以上展開できない、あるいは原因究明をやめたケースを示します。

4通常事象
家型の枠

欠陥がないケースで、普通に存在するケースを示します。常に論理記号の入力となります。

 事象説明のポイントを以下に示します。
  1. 1.具体的にわかりやすく(温度不安定→温度が30℃を超えて変動する)
  2. 2.表現を統一する(・・・低下、・・・下がる。・・・不良、・・・機能の劣化。・・・喪失、・・・失う。)
  3. 3.改善できるレベルまで具体的に(接点不良→過電流により接点が溶着)
事象記号(トップ事象と中間事象)の例を以下に示します。
                   《トップ事象と中間事象の例》

 トップ事象を「自動車のエンジン停止」とします。 この場合の中間事象(トップ事象の起こる原因)としては、例えば「ガソリンが供給されない」「プラグがスパークされない」が考えられます。この時、「ガソリンが供給されない」「プラグがスパークされない」という中間事象が単独で起こっても「自動車のエンジン停止」になりますので、トップ事象と中間事象は論理記号の「ORゲート」で結ばれます。

 
事象記号(基本事象、非展開事象と通常事象)の例を以下に示します。
                         《基本事象と非展開事象の例》

 「プラグがスパークしない」原因として「プラグの不良と「断線」が考えられます。
 プラグは、最小単位の部品のため「プラグの不良」は、基本事象となります。また、「断線」は、その原因究明は難しいため非展開事象となります。

            《通常事象の例》

 通常事象とは、日常生活で欠陥や危険がない正常な状態を表します。
 たとえば、晴天、雨、風等の環境状態や、ストーブの異常燃焼を考えている場合の「空気」等が挙げられます。

-移行記号-

 移行記号は、重複を避けるために用い、FT図上の関連する部分への移行、または連結を表します。FT図作成の時、ツリーの枝の展開で重複する部分が出てきたら、一方の枝は最後まで展開を進めていきます。他方はそこでストップし、以下に示し移行記号を用いて相互を結び付けます。この記号は、FT図の重複する部分を省き、ツリーを簡素化するのに役立ちます。また、この記号は、FT図を一枚の紙に描ききれないで分割して描く場合にもツリーの接続を示すのに使います。

No名称記号説明
1移行記号
(入力)
FT図の関連する部分(a)へ移行することを示します。
2移行記号
(出力)
FT図の関連する部分(b)から移行することを示します。

どこからどこへ移行するかを識別するため、左図に示すように対応する記号中に同じ文字(c)または数字を書き入れます。

移行記号の例を以下に示します。

 ページ1の「自動車のエンジンン停止」を例に移行記号の使い方を説明します。この事象の原因のひとつに「ラジエータのつまり」が考えられます。通常はこのままツリーを展開していくのですが、ページがまたがってしまったため、移行記号を用いて「a」部分でページ2に示すように展開していきます。

 ページ2は、ページ1の「a」で移行された移行記号aの部分で「ラジエータのつまり」の原因を展開していきます。

-論理記号-

 FT図における事象間の因果関係を示すのが論理記号です。論理記号の説明を下表に示します。

No名称記号説明
1ANDゲート

すべての入力事象が起こることを示します。左図の場合、AとBの入力事象が同時に起これば出力事象Xが起こります。このような場合を論理積といいます。

2ORゲート

いくつかの入力事象のうち、1つが起きると出力事象が起こることを示します。左図の場合、AあるいはBの入力事象のうち、いづれか1つが起きれば出力事象Xが起こります。このような場合を論理和といいます。

3組合せゲート

入力事象N個のうち、M個が起これば出力事象Xが起こります。
注)本記号はORゲートで代用可能なため、あまり用いられません。

4制約ゲート

入力事象とともに、ある条件を示す事象が起きた場合のみ出力事象が起こることを示します。左図の場合、Aの事象が起こり、かつCの条件事象が起きると、出力事象Xが起こります。

↑ ポイント:制約ゲートのFT図は、ANDゲートで書き換え可能です。

論理記号(ORゲートとANDゲート)の例を以下に示します。

         《ORゲートの例》

 左図の「セルモータが起動しない」事象は、「セルモータ故障(基本事象)」、あるいは「セルモータに電力が供給されない(非展開事象)」のいずれか1つが起きればセルモータは起動しないので、「ORゲート」を使います。

 
         《ANDゲートの例》

 左図の「セルモータが停止しない」事象は、基本事象の「スイッチの故障」と「電源の故障」が同時に起きた場合にのみセルモータが停止しなくなるので、「ANDゲート」を使います。

論理記号(制約ゲート)の例を以下に示します。

動作の説明:「出力軸が回転する」のは、モータが回転し、かつクラッチがつながっている場合である。

 動作の説明を基に「出力軸が回転しない」事象を考えてみましょう。
左図に示すようにこの事象は、基本事象の「モータが故障」していて、かつ「クラッチが切れない」制約がある場合に発生するため、制約ゲートで説明できます。

 上記の制約ゲートは、左図のように「ANDゲート」で書き換えられます。
 「出力軸が回転しない」事象は、基本事象の「モータが故障」と「クラッチが切れない」が同時に起こることにより発生するため、「ANDゲート」を使うことができます。